※この物語は、小規模製造業で実際によくある課題や経験をもとに再構成したフィクションです。
前回まで:主要取引先から、来月からの発注30%減を告げられた恒一。売上の7割をその会社に頼っているが、何をどうすればいいのか分からないまま、会社に戻った。(第1話を読む)
会社に着いたのは、夕方だった。
事務所に入る前に、一度深呼吸をした。
社員に気づかれるわけにはいかない。
自分の机に着くと、経理を任せている妻が、ノートパソコンを持ってきた。
「ねえ、恒一さん。このホームページやEC、それから展示会って……本当に続けるの?」
画面には、表が映っていた。
ホームページの保守費。ECモールの出店料。展示会の出展費と、準備にかかった残業代。
「全部足すと、年間でこれだけ。で、そこから入った注文が、これだけ」
数字は、正直だった。
かけたお金の何分の一も、返ってきていない。
「作った方がいいって言われて作って、出た方がいいって言われて出て。それで五年でしょう。あるだけ、出ただけに、なってない?」
反論しようとした。
ホームページを見て、問い合わせをくれた会社があったじゃないか。
展示会で名刺交換した相手から、注文が来たこともあったじゃないか。
でも、口から出たのは、違う言葉だった。
「……ちょっと、考えさせてくれ」
問い合わせも注文も、単発で終わった。続いた取引は、ない。
それは、私がいちばんよく知っていた。
発注が三割減ることは、言えなかった。
この数字の上に、さらにあの話を重ねる勇気が、出なかった。
「……何かあった?」
「いや、何も」
逃げるように、現場に出た。
機械の音の中にいると、少しだけ落ち着く。
ここには、目に見える仕事がある。
その途中で、ベテランの職人に呼び止められた。
父の代から、ずっとここにいる人だ。
「社長、ちょっといいですか」
嫌な予感がした。
「最近の仕事、質が悪すぎます」
一瞬、加工不良のことかと思った。
どの案件だろう。
そんなことを考えたが、見当違いだった。
「単価の安い突発ばかり、ほいほい受けるでしょう。段取り替えばっかりで、機械も人も休む間がない。若いのに教える時間も取れない」
「それは……今は、仕事を選べる状況じゃないから」
「分かってます。でもね、社長。場当たりな対応に、現場は振り回されてるんです。これ以上、余計なことを増やさないでください」
余計なこと。
展示会も、ホームページも、ECも。
全部「また思いつきか」だったのかもしれない。
何でも受けてきたのには、理由がある。
売上の七割をあの会社に頼っている状態から、抜け出したかった。
だから、できそうな仕事は、単価が安くても突発でも、全部受けた。
でも、その結果がこれだ。
仕事は増えたのに、利益は増えない。
現場は疲れ、妻には数字を突きつけられ、職人には釘を刺された。
夜、一人になった事務所で、電気もつけずに考える。
妻の数字にも、職人の言葉にも、言い返せなかった。
言い返せる材料が、ひとつもなかった。
やってきたことを、今日一日で、全部否定された気がした。
今までやってきたことは、全部間違いだったのか。
……いや。
本当に、全部だろうか。
今日の主人公の頭の中
□ 分かったこと
・ホームページ、EC、展示会は、費用に見合う成果が出ていない
・現場は疲弊している
□ 分からないこと
・全部間違いだったのか
・何をやめて、何を残せばいいのか
□ 今の気持ち
・言い返せなかった惔しさ
・情けなさ
・それでも、やめる決心がつかない
次回予告
答えの出ないまま、恒一は深夜の事務所でひとり、ノートを開きます。
思いつくままに書き出してみると、あれだけ大きく見えていた問題は──。
運営者の実体験はこちら
私も以前、改善を重ねても成果が出ず、「やり方」ではなく「方向」を見直した経験があります。
▶ 実績記事:改善を続けても成果が出ない。方向転換が必要な時もある
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