※この物語は、小規模製造業で実際によくある課題や経験をもとに再構成したフィクションです。
前回まで:妻からはホームページ・EC・展示会の費用を数字で示され、ベテランの職人からは「余計なことを増やさないでほしい」と釘を刺された恒一。言い返す言葉がひとつもないまま、夜の事務所に一人残った。(第2話を読む)
夜の事務所に、一人で残っていた。
机の上には、妻が置いていった費用の表がある。
やめれば、赤字は止まる。それは分かっている。
でも、そこから入るわずかな注文さえ、今は手放すのが怖い。
売上の三割が消えるのだからなおさらだ。
本当に、これでいいのか。
これが、自分の目指した会社の姿なのか。
ふと、会社を継いだ頃のことを思い出した。
五年前まで、私はラーメン屋の店主だった。
十代から修業して、二十六で自分の店を持った。
大繁盛とは言えなかったが、夫婦二人で切り盛りして、家族を養えるくらいには続いていた。
しかし、先代の父が倒れたのをきっかけに、常連さんに惜しまれながら店を閉め、妻と子どもを連れて地元に戻ってきた。
巻き込んだ家族への申し訳なさが、ずっとある。
だから「絶対に会社を良くする」という思いだけで、ここまでやってきた。
けれど……、会社を良くするって、何だ。
給料を上げられる会社が、良い会社なのか。
休みが多い会社が、良い会社なのか。
やりがいのある仕事があれば、良い会社なのか。
考えれば考えるほど、分からなくなっていく。
そのとき、ふと下の子の顔が浮かんだ。
少し前、宿題の前で固まっていた。
「何が分からないのかが、分からない」と言って。
あのとき私は、こう言ったのだ。
「じゃあ、どこから分からなくなったのか、確認してみよう」
……同じじゃないか。
今の私は、何が分からないのかが、分からない。
なら、確認するしかない。
机の引き出しにあった、ほとんど白紙のノートを開いた。
まず、思いつくまま、全部書いた。
発注が三割減る。新しい取引先が増えない。単価が安い。突発ばかり。現場が疲れている。若手に教える時間がない。ホームページの費用。ECの費用。展示会の費用。利益が出ない。銀行への返済……。
書いても書いても、出てくる。
頭の中は、こんなものを全部一度に抱えていたのか。
次に、同じことを言っている項目を、線でつないだ。
「単価が安い」と「突発ばかり」と「利益が出ない」は、要するに同じ話だ。
「ホームページ」「EC」「展示会」も、まとめれば一つになる。
つないで、消して、書き直して。
気づけば、日付が変わっていた。
最後に残ったのは、三つだった。
①新しい取引先が増えない
②仕事量のわりに、利益が少ない
③売上が三割減る
あれだけ頭の中を埋め尽くしていた悩みが、紙の上ではたった三行。
しかも三つとも、行き着く先は同じ。
「売上」の話だ。
私は、その紙をしばらく眺めていた。
少しだけ、息がしやすくなった気がした。
でも、すぐに次の疑問が浮かんだ。
売上のために、この五年、動いてこなかったわけじゃない。
むしろ、動きすぎるくらい動いてきた。
なのに、なぜ。
なぜ、五年間頑張ってきたのに、成果が出なかったんだ。
今日の主人公のノート
□ 分かったこと
・問題は、大きく三つだけだった(新規が増えない/利益が少ない/売上が三割減る)
・三つとも「売上」につながっている
□ まだ分からないこと
・なぜ、五年間動いてきたのに成果が出なかったのか
□ 次に調べること
・お金をかけてきたものから、順番に見直す。まずはホームページ
次回予告
成果が出なかった原因を探すため、恒一はまず自社のホームページを開きます。
プロに頼んで作った、悪くないはずのホームページ。ところが、ラーメン屋時代の友人に見せてみると──。
▶ 第4話:なぜ友人は「他の会社と同じに見える」と言ったのか
運営者の実体験はこちら
私も、売上の悩みを「施策単位」ではなく「全体」から振り返ったことで、見えてきたものがありました。
▶ 実績記事:運営者実績|売上づくりの現場で学んだ5つの考え方
あなたの経験をお聞かせください
あなたは、会社の悩みを紙に書き出したことがありますか。
書き出してみて意外だったことや、気づいたことがあれば、ぜひ聞かせてください。

