※この物語は、小規模製造業で実際によくある課題や経験をもとに再構成したフィクションです。
前回まで:既存顧客の一言で、ベテランの苦言の意味に気づいた恒一。うちの本当の実力は、自分より社員の方が知っているのではと思いたった。(第7話を読む)
思い立ったらすぐだった。
翌朝の朝礼で、全員の前に立った。
「突然ですが、うちの会社の強みは何だと思いますか。みなさんの意見を聞かせてほしいです」
場が、しんと静まり返った。
誰一人、口を開かない。
互いの顔をちらちら見合うだけで、時間だけが過ぎていく。
若い社員が恐る恐る手を上げた。
「あの……社長、何かあったんですか」
あちらこちらから不信感が伝わってくる。
「会社、大丈夫なのかな」
そんな声こそ聞こえなかったが、社員たちの表情がそう言っていた。
しまった。
「いや、何でもない。急に変なことを聞きました。今のは忘れてください」
私は朝礼を終わらせた。
仕事をしていても、社員たちの様子が気になった。
廊下ですれ違うたびに、いつもより会話が少ない気がする。
気のせいかもしれない。
でも、自分でつくった空気だ。
午後、工場へ行くと、ベテランの職人に呼び止められた。
「社長、今日の朝礼、あれは何だったんですか」
私は返事に詰まった。
「急にあんなことを聞かれたら、みんな『会社で何かあったのか』と思いますよ」
その通りだった。
けれど、私は何も言えなかった。
発注が三割減ることは、まだ話せない。
話せば、もっと不安にさせる。
でも、話さなかったことで、別の不安を生んでしまった。
どうすればいいのか。
頭の中がぐるぐるして、なかなか寝付けず、布団の中で一人考える。
あの質問をしたことが間違っていたのか?
……いや、違う。
長く愛される会社にしたいから、誰に何を提供すれば喜んでもらえるのかを知りたいから、質問したんだ。
間違っていたのは、質問じゃない。
伝える順番だ。
これを、そのまま伝えればいいじゃないか。
そうすればきっと……。
今度は朝礼ではなく、全員に会議室へ集まってもらった。
「みなさんに、話さなければならないことがあります」
来月から発注が三割減ることを打ち明けると、妻以外の全員が不安な表情で互いに顔を見合わせ始めた。
「不安になるは当然です。だからこそ今、この会社の強みをみなさんと一緒に考えて、新しい仕事を増やして、長く愛される会社にしていきたいです」
少しだけ、みんなの表情が落ち着いたように見えた。
私も一呼吸おいて、もう一度たずねた。
「うちの会社の強みは、何だと思いますか?」
ベテランの職人が先に口を開いた。
「社長。今聞かれても、誰も答えられませんよ」
その言葉に、思わずうつむいてしまう。
「しっかり考えたいので、少し時間をください」
私は顔を上げた。
同じ質問。同じ人たち。
でも、返ってきたものは昨日とは違っていた。
同じ言葉でも、順番が違うだけで、こんなにも伝わり方が変わるのか。
今度こそ、一人ひとりの話を聞いてみよう。
今日の主人公のノート
□ 分かったこと
・順番を間違えると、同じ言葉でも不信になる
・状況を正直に伝えることで、初めて同じ方向を向いて考えられる
□ まだ分からないこと
・社員は、この会社をどう見ているのか
□ 次にやること
・社員一人一人に、あらためて話を聞く
次回予告
社員一人ひとりに、あらためて話を聞くことにした恒一。そこで知ったのは、自分が一度も気づいていなかった、この会社の姿でした。
運営者の実体験はこちら
私も以前、「何を伝えるか」ばかり考えて、「どんな順番で伝えるか」を意識できていなかったことがありました。
同じ内容でも、伝える順番が変わるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。現場で成果につながった提案ほど、そのことを強く実感しました。
あなたの経験をお聞かせください
あなたは、社員やチームに伝える順番を間違えて、不信を招いたことはありますか。
逆に、順番を気をつけたことでうまく伝わった経験があれば、ぜひ聞かせてください。

