※この物語は、小規模製造業で実際によくある課題や経験をもとに再構成したフィクションです。
前回まで:受けない仕事の基準を決め、目指す相手も決まった。だがその相手は、まだうちを知らない。ホームページか、展示会か、ECか——そもそもそれで届くのかと、恒一は考え始めた。(第10話を読む)
ホームページか、展示会か、ECか。
考え始めて、すぐに手が止まった。
これは、五年前と同じ考え方じゃないか。
集客はネットの時代だと言われてホームページを作り、BtoCも必要だと言われてECモールに出し、コネ作りにと展示会に出た。
手段から先に考えて、全部うまくいかなかった。
でも、今の私には、あの頃になかったものがある。
目指す相手と、選ばれてきた理由だ。
手段から考えるのは、もうやめよう。
あの相手に届くかどうかで、一つずつ判断すればいい。
それに――ずっと残したままの宿題があった。
妻の、「全部やめない?」だ。
あの日は、何も言い返せなかった。
効果が出ていないのは、事実だったからだ。
週末の事務所で、妻と二人、一つずつ見ていった。
まずは、ECモール。
妻が帳簿を開く。
「売上より、管理費と手数料の方が大きい月がほとんど」
買ってくれるのは、価格で比べて選ぶ、一回きりのお客さんが多かった。
試作の段階から相談したい会社が、モールでうちを探すだろうか。
――探さない。
「ECは、やめる」
数十万かけて作った画面を閉じると思うと、胸の奥が少し痛んだ。
でも、あの表を思い出す。決めるとは、こういうことだ。
次に、展示会。
正直、これもやめるつもりだった。
名刺は増えたが、仕事にはつながらなかった。
でも、思い出したことがあった。
ブースに来た人の中に、図面を広げて相談してくる人が、たしかにいた。
当時の私は、名刺の枚数ばかり数えて、その人たちの顔を覚えていなかった。
出ること自体が間違いだったんじゃない。
「何でもできます」を並べて、誰にでも同じように配っていたのが間違いだったんだ。
「展示会は、続ける。ただし、目的を変える。名刺の枚数じゃなくて、試作の相談を一件もらうために出る」
百枚の名刺より一枚の図面の方が、うちには価値がある。
最後に、ホームページ。
妻が私の顔を見た。
「これも、やめる?」
いや、と首を振った。
あの相手がうちを知ったとき、最初に見に来るのは、きっとここだ。
ホームページは会社案内じゃない。
相手に「ここなら相談できそうだ」と思ってもらうための場所なんだ。
友人の言葉を思い出す。
「どこの会社のホームページも、同じに見える」
あれから、選ばれてきた理由は見つけた。
でも、ホームページはあの日のまま、何も変わっていない。
三つ見終えて、ノートに書いた結論を眺める。
ECはやめる。展示会は目的を変えて続ける。ホームページは書き直す。
全部やめるでも、全部続けるでもなかった。
相手が決まると、手段ごとに、答えは変わるんだ。
「やっと、うちの会社らしくなりそうだね。」
妻が、少し笑った。
その夜から、ホームページの文章を書き直し始めた。
書きたいことは、次から次に出てくる。
図面の不備に先回りで気づくこと。緊急の対応に強いこと。三十五年分の記録。社員たちのこと。
全部、伝えたい。
でも、違う。
私が書きたいことじゃない。
相手が知りたいことを書くんだ。
書き上げたら、まず、あの友人に見てもらおう。
今度こそ、「変わったな」と言ってもらえるはずだ。
今日の主人公のノート
□ 分かったこと
・全部やめるか全部続けるかの二択ではなかった。相手が決まると、手段ごとに答えが変わる
・ECはやめる。展示会は目的を変えて続ける。ホームページは書き直す
□ まだ分からないこと
・ホームページに何をどう書けば、あの相手に伝わるのか
□ 次にやること
・自分の言葉で書き直して、友人に見てもらう
次回予告
伝えたいことを全部詰め込んだ自信作を、恒一はあの友人に見せます。返ってきたのは、二度目の「同じに見える」でした。
運営者の実体験はこちら
私も、時間とお金をかけて育てたBtoCの販路を、やめると決めたことがあります。かけたものを思うと、なかなか手放せませんでした。
決め手になったのは、売れているかどうかではなく、届けたい相手とその手段が合っているか、でした。販路を手放した判断の裏側を、こちらにまとめています。
あなたの経験をお聞かせください
あなたの会社では、ホームページ・展示会・ECなどの手段を、「誰に届けるか」から見直したことはありますか。
やめた手段、目的を変えて続けた手段があれば、その判断と結果をぜひ聞かせてください。

